お肌のケアによりお肌の悪玉菌のみを制し、善玉菌・美肌菌のみを増やす事は出来ますか?

現代科学においては、



1.「すべての人体常在菌を善・悪に分類出来ていない・出来ない」



2.「同じ生きものを善・悪で分類して、片方だけを制し・減らしたり、片方だけを育て・増やしたり出来るテクノロジーはない」

ということがあります。

私たちの皮膚上にはまだ名前がつけられていないものも含めて多くの細菌が生息しているといわれています。

現代の最新科学においては、皮膚常在菌のなかでトラブル原因になる菌の同定が進んではきていますが、
名前もついてないものも含めて皮膚常在菌すべての善玉菌・悪玉菌の分別というのは実際には出来ていないのが事実です。

それは皮膚の場合、善玉とされる常在菌であっても状況により悪い作用をする事もあり(日和見菌とも呼ばれる)、
また逆に悪玉と表現される常在菌も、外部からの細菌侵入を抑制する等の良い働きをする可能性も科学的に否定できていない、

つまりすべて常在菌の善・悪の判断については、エビデンスがなく詳細が研究・解明されていないからです。

次に、細菌はグラム陽性菌・グラム陰性菌・真菌等で分類されるものであり、善玉菌・悪玉菌として分類されるものではなく、
同じ生物を善・悪と分別して選別する最新テクノロジーはないという点です。

人間や動物、虫や生物と同じ様に、「毒薬」や「殺虫剤」、「殺菌剤」を使えば、善い人も悪い人も、善い動物も悪い動物も、益虫も害虫も、人体を形成する常在菌もバイ菌・ウィルスも、善玉菌も悪玉菌も、「同時に全部、両方に作用」してしまいます。

逆も同じで、近年の乳酸菌ブームから美容界での「菌」への注目も増えていますが、人体に良い作用をする「善玉菌」や「美肌菌」に着目し、その「善玉菌」「美肌菌」を育てたい・増やしたいと思っても、同時に「悪玉菌をはじめ全ての菌」が増えます。
  

また人間や動物は自らの肌を守り、健康を保つために必要な皮脂を分泌するという生理機能を進化の過程で獲得しています。汗腺より分泌される皮脂には、各人の皮膚のPh値を最適に保ち、皮膚常在菌のバランスを整える成分が含まれています。

それは脂肪酸といわれるもので、人間の皮脂にも、オリーブオイルなどの植物オイルや動物オイルにも多く含まれている成分です。そのため、皮脂を補い肌を良い状態に保ってくれるという効果を期待して、それら脂肪酸を含む植物・動物オイルを配合した化粧品が世界中にあるのです。

しかし、その皮脂の構成要素である脂肪酸が、黄色ブドウ球菌などの「悪玉菌」を抑え、表皮ブドウ球菌などの「善玉菌」「美肌菌」を優位にするかという事については、それは本来の人間や動物が持つ、肌を弱酸性に保ち常在菌バランスを整えるために動物に必要な基本的な生理機能(口の中を弱酸性に保ち常在菌バランスを保つ「唾液」と同じ)であり、「悪玉菌」を抑えて「善玉菌」「美肌菌」を優位にするということは極めて当然のこととなります。(そうでない場合、肌が「悪玉菌」ばかりになり皮膚トラブルとなります。)

さらに皮膚に、すべての菌にとって栄養分となる脂肪酸や植物・動物オイルを含む化粧品を塗ることによって、なぜ「悪玉菌」のみが減り、なぜ「善玉菌」「美肌菌」のみが増えるのか、常にそうなるのか、などの作用機序については科学的根拠に乏しく、また実際の臨床効果を得ることは困難であると考えられてきました。

また世界中の各人の皮脂成分や各人に最適な脂肪酸構成は一人一人異なり、また皮膚の常在菌構成も一人一人異なるため、皮脂に含まれる脂肪酸を肌に与えても(例えば、口の中の場合は唾液に含まれる成分を口腔内に追加しても)、各人に共通して「悪玉菌」が減ってくれ、「善玉菌」「美肌菌」が増えてくれるということは、菌叢研究の中で学術的には現実的ではないという課題がありました。

(ただ当研究チームも脂肪酸の肌への有用性は高いと考え、ボディピース プレミアムハンドケアクリームは皮脂の働きを補う、その脂肪酸を豊富に含む世界の美容成分を数多く配合した皮膚用ケア製品として研究・開発を行いました。)

唯一ある種の細菌のみを選択して制することのできるという抗菌ペプチド・バクテリオシンについて、世界の最先端の乳酸菌研究において現在判明していることは以下となります。

生物である乳酸菌が繁殖するために自分や仲間にとって敵となる菌を制する(自分自身や仲間には無害)の抗菌ペプチドを産出するというのが、乳酸菌が作り出す抗菌物質・抗菌ペプチド・バクテリオシンです。

乳酸菌が作り出す抗菌物質・抗菌ペプチド・バクテリオシンは、種類によって異なりますが、抗菌スペクトル(範囲)が狭いものから広いものまで多く存在します。

例えば、世界で初めて発見され最も有名な「ナイシンA」は、乳酸菌バクテリオシンのなかで最も抗菌スペクトルが広く、グラム陽性菌のほとんどを制します。

一方、抗菌スペクトルが狭いバクテリオシンは、特定のグラム陽性菌(生産菌の近縁のグラム陽性菌)のみしか制しません。

この事を、「ある菌やバクテリオシンが特定の悪玉菌を選択して制する」と言えなくもないですが、残念なことに悪くない近縁のグラム陽性菌にも一緒に作用してしまいます。

悪玉菌とされる黄色ブドウ球菌「のみ」を選んで「単一作用」する菌・物質・バクテリオシンは世界でも未だ発見されていません。

すべての菌の中で「悪玉菌」だけを退治するということは不可能なのです。

逆に「善玉菌」「美肌菌」『のみ』に栄養を与え優位にする、「善玉菌」「美肌菌」『だけ』を増やす、ということも不可能です。

皮膚上の「善玉菌」「美肌菌」等の存在・作用を知り着目し、「善玉菌」「美肌菌」を育てたり増やしたりすることで、美容・保湿作用を求めたいという気持ちは分かりますが、残念ながら、同時に「悪玉菌」も増やしてしまいます。

例として、乳酸菌が好む「オリゴ糖」や「食物繊維」などの栄養分を「善玉菌」「美肌菌」に与えれば、同じく「悪玉菌」にも栄養になり、「善玉菌」「美肌菌」と同時に「悪玉菌」も同じ様に増えることになり得ます。

人体への新しい「善玉菌」「美肌菌」等の外部からの菌の定着は実際には難しく、また各人の常在菌の「善玉菌」「美肌菌」にのみに栄養を与えることはできないということは、結局は「善玉菌」「美肌菌」・「悪玉菌」等で構成される菌フローラは変わらず、栄養を与えれば比較的強い力を持つ「悪玉菌」も元気になり、さらに勢力を拡大することもあり得ます。

つまり人体の、「悪玉菌だけを選んで制する」こと、「善玉菌・美肌菌のみを増やす」ことは最新の科学技術では実現出来ていない事なのです。

地球上の生物は我々人間も同じですが、それぞれが支え合って、補い合って、作用し合って生き、バランスして共存しています。

それらはすべて無意味に存在しているわけではなく、科学でそれぞれの働きや相互作用の解明が進んでいない状況で、すべてを善・悪と区別できず、優・劣と区別できないのが事実です。

また同じ人類であっても、遺伝や生活環境などによって民族・家族・各人によって皮膚上の細菌構成は異なる研究結果が報告されており、各人にとって数百種を超える皮膚常在菌を善い菌か悪い菌かに分別することはできないといえます。



我々が皮膚や腸内に持っている菌やフローラは、出生時からすべて持っているものではなく、乳幼児の頃から頬擦りや唾液接触などにより同じ遺伝子を持ち、同じ環境で生活を行う親などから受け継ぐ菌やフローラであり、各個人に遺伝的・環境的に最適な菌構成が体を守っているといえます。

生きものは、人間と同じように、特定の誰か・社会にとっては善い面・悪い面ありますが、必要であるから生まれてきて存在し、それぞれの個性を持って生き、共生してます。

我々の目には見えませんが、それは同じ生物である細菌も同じです。

皮膚がトラブルに見舞われるのは、皮膚常在菌として皮膚上に住み、普段は問題を起こさない(何らかの役に立っている)菌のひとつである黄色ブドウ球菌やアクネ菌が「増えすぎて」問題を起こすことが原因です。

当研究チームでは、皮膚常在菌として存在しながらトラブルによって「増えすぎて」問題を引き起こす菌に安全にアプローチし、素肌を健康で平和な状態に保つ研究を行っています。

詳しくは、論文集をご覧ください。

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